改正法が成立するとき、衆議院と参議院はそれぞれ14項目の附帯決議(法律の運用で政府に注意を求める決議)を付けました。政令や規則をどう作るかの方向を読むときの手がかりになります。衆参の全項目を1つの表に並べ、文言が違う項目と、関連するテーマの記事を示します。
1. 附帯決議とは何か
附帯決議は、法律案を可決するときに委員会が付ける決議で、政府に運用上の注意や今後の検討を求めるものです。法律の条文そのものではなく、政令や規則の中身を決めるものでもありません。ここに書かれた方向が、そのまま規則になるとは限りません。
委員会事務局の資料は、2つの決議の日付を次のとおり記録しています。
- 衆議院: 2026年5月21日、地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会。5月26日に本会議で可決。
- 参議院: 2026年7月8日、デジタル社会の形成及び人工知能の活用等に関する特別委員会。7月10日に本会議で可決され、法案が成立。
2. 14項目の対照表
項目の番号と順序は、衆参とも同じです。「求めている内容」は両院に共通する部分を、委員会事務局の資料の文言を短くまとめて書いています。決議の文言そのものは、出典の資料でご確認ください。
| 項目 | 求めている内容(共通部分) | 衆参の違い | 関連する記事 |
|---|---|---|---|
| 一 政令・規則を作るときの意見聴取 | 規則などを定めるときは、国民や団体などの関係者の意見をあらかじめ聴いて反映し、決めていく過程の透明性と、事業者が先を見通せることを確保する。 | 文言の違いのみ(衆議院は「意見を聴取」、参議院は「幅広く聴取した意見」) | 政令・規則の整備プロセス |
| 二 AI開発などの萎縮防止 | EUの一般データ保護規則など外国の制度との整合に留意し、AI開発を含む研究開発や事業活動が必要以上に縮こまらないよう配慮する。 | 参議院は、個人の権利利益が適正に守られること、統計作成等の概念が適正に解釈されることへの留意を加えている | 統計作成等の特例 |
| 三 統計作成等の取扱い | 統計作成等では、他の情報と照合しても特定の個人を識別できないようにする措置を確実に行う。公表事項は本人が容易に知れる状態にする。 | 衆議院は、統計作成等の概念を狭く解釈しないことと、委員会による状況把握・公表を求める。参議院は、AIモデルによる個人の識別・要配慮個人情報の推知のリスクの勘案、外国企業を含む公表のモニタリング、報告徴収などを求める | 統計作成等の規則7論点 |
| 四 統計作成等で扱う要配慮個人情報 | 統計作成等のために要配慮個人情報を扱うときは、漏えいや不適正な利用を防ぐ十分な安全管理と、委託先の監督を徹底させる。 | 参議院は、委員会の重点的な監督の対象にすることと、病歴などの第三者提供について医療分野のガイドラインで医師等の守秘義務や研究倫理指針との関係を明確にすること、ほかの法令の別段の定めを尊重することを加えている | 統計作成等の特例 |
| 五 プロファイリング規制 | 閲覧履歴や購入履歴から信条などの機微な情報を推測する精度の高い手法が広まっているとの指摘を踏まえ、規制のあり方を外国の制度などを基に引き続き検討する。 | 同文 | 対応する記事なし |
| 六 プライバシー強化技術(PETs) | PETsを使うにあたって、産業競争力の向上にも役立つ観点から、適切なインセンティブ(促す仕組み)を検討する。 | 参議院は、技術動向の調査研究と、事業者による積極的な活用の促進も加えている | 対応する記事なし |
| 七 本人の意思に反しないことが明らかな場合の同意不要 | 本人の同意を不要にする場合を規則で定めるときは、事業者の恣意的な判断や濫用を防ぐため、必要最小限にとどめ、具体的な範囲と判断基準を規則に明記する。 | 参議院は、対象となる場合の例として「契約の履行のために必要やむを得ないことが明らかである場合」を本文に挙げている | 目的外利用等の規律緩和 |
| 八 こどもの個人情報 | 児童の権利に関する条約や外国の取組事例を踏まえ、こども基本法の精神にのっとって、こどもの最善の利益を最優先に考える。同意の取り方は消費者・事業者の双方に過度な負担を生じさせない柔軟な手法を認め、教育・保育の現場には法令とガイドラインの周知を徹底する。 | 参議院は、こども基本法がこどもを「心身の発達の過程にある者」と定義していることに触れ、年齢その他の事情を考えに入れるとしている | こどもの個人情報、16歳未満の読替表 |
| 九 顔特徴データ等(特定生体個人情報)の周知 | 本人が関われない状態で不適正に扱われるおそれが高いため、義務になる周知の実効性を確保する方法を検討して明らかにする。扱っていることと利用停止請求の手段を、監視カメラやセンサーなどの機器の周辺に分かりやすく掲示するなどして周知させる。 | 参議院は、機器の周辺に加えて「機器の検知対象者が十分認識できる場所等」にも掲示するとしている | 顔特徴データ等、顔識別カメラの周知事項 |
| 十 漏えい等の本人通知の代替措置 | 漏えい等の報告で、本人への通知の代わりの措置が認められる場合は、事業者が恣意的・拡大解釈で使わないよう、対象範囲と判断基準を規則に明記する。 | 同文 | 漏えい等報告・通知、報告を要しない場合・本人通知の代替 |
| 十一 オプトアウト届出事業者への監視と、闇名簿への対応 | オプトアウト(本人の求めがあるまで第三者提供を続ける仕組み)の届出事業者による不適切な提供が起きないよう、監視・監督を徹底する。闇名簿に流用されるなど重大な違反が分かったときは、緊急命令と課徴金納付命令を速やかに出し、不正な収益の剥奪に万全を期す。 | 仮名の表記のみ(衆議院「躊躇なく」、参議院「ちゅうちょなく」)。内容は同じ | オプトアウト制度の強化 |
| 十二 課徴金制度の運用 | 課徴金納付命令の基準などを明確なガイドラインにして、運用の透明性を確保する。悪質な繰り返しには、課徴金額の算定の基礎を適切・確実に把握する。 | 衆議院は、事業者が過度に萎縮しないようにすることを書いている。参議院にはこの表現がなく、将来の課徴金額の見直しの検討と、課徴金の対象行為を限定する要件の継続的な見直しを加えている | 課徴金制度 |
| 十三 団体による差止請求・被害回復制度 | 違法な取扱いによる被害の拡大防止と事後の救済のため、団体による差止請求制度と被害回復制度の導入に向けた検討を引き続き行う。消費者と事業者の双方の意見に十分配慮する。 | 同文 | 団体訴訟制度 |
| 十四 委員会の人員・予算 | 監視・監督の業務が増えることに鑑み、個人情報保護委員会の人員と予算の更なる充実に取り組む。 | 同文 | 対応する記事なし |
3. 衆参の違いの見方
14項目のうち、参議院が内容を足している項目は、二・三・四・六・七・八・九・十二の8項目です。一は文言の違いだけ、十一は仮名の表記だけの違いです。五・十・十三・十四は同文です。衆議院だけにある内容は、十二の「事業者が過度に萎縮しないように」という表現です。
参議院で足された内容は、統計作成等の監督の強化(三・四)、顔特徴データ等の掲示場所の広がり(九)、課徴金の要件の見直し(十二)などです。参議院の決議の方が後に付いたものですが、衆議院の決議が取り消されるわけではないため、2つを並べて読んでください。
4. 事業者が先に見ておく項目
自社の取扱いで関係しやすい項目を、場面から探すときの手がかりです。個別の判断はできません。
- 顔認証や防犯カメラなどを使う: 九。扱っていることの周知を、機器の周辺などで目に付く形にするよう求めています。
- 16歳未満の人の情報を扱う: 八。同意の取り方に柔軟な手法を認める方向が書かれています。
- データの分析やAI開発に個人情報を使う: 二・三・四。統計作成等の範囲と、公表・安全管理の求めです。
- 名簿の第三者提供(オプトアウト)をしている: 十一。届出事業者への監視が強まる方向です。
- 違反したときの金銭の負担が気になる: 十二。基準を明確にするガイドラインを作る方向です。
よくある質問
附帯決議は、政令や規則の内容を決めるものですか。
いいえ。附帯決議は、法律案を可決するときに委員会が付ける決議で、政府に運用上の注意や今後の検討を求めるものです。法律の条文そのものではなく、政令や規則の中身を決めるものでもありません。ここに書かれた方向が、そのまま規則になるとは限りません。
衆議院と参議院の決議は、どこが違いますか。
項目の番号と順序は同じです。参議院が内容を足している項目は、二・三・四・六・七・八・九・十二の8項目です。一は文言の違いだけ、十一は仮名の表記だけの違いで、五・十・十三・十四は同文です。衆議院だけにある内容は、十二の「事業者が過度に萎縮しないように」という表現です。
顔認証や防犯カメラを使っている場合は、どの項目を見ればよいですか。
項目の九です。顔特徴データ等を扱っていることと利用停止請求の手段を、監視カメラやセンサーなどの機器の周辺に分かりやすく掲示するなどして周知させる、と求めています。参議院は、「機器の検知対象者が十分認識できる場所等」にも掲示するとしています。周知の具体的な方法は、まだ決まっていません。
決議で求められた判断基準は、もう規則で決まりましたか。
決まっていません。七(本人の意思に反しないことが明らかな場合の同意不要)や十(漏えい等の本人通知の代替措置)で規則に明記するとされた判断基準は、この資料からは決まっていません。決まったことは、決定タイムラインとまだ決まっていないこと一覧で追います。
出典
- S-52個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律の成立を受けた個人情報保護委員会の今後の取組について」(PDF・2026年7月31日) 2節(確認日 2026-10-05)