日本の個人情報保護法制で初めて、行政上の措置として金銭的不利益を課す課徴金制度が導入されます。すべての違反が対象になるわけではありません。対象となる行為・要件・算定の枠組みのうち、何が決まっていて何がこれから政令・規則で決まるのかを分けて書きます。
1. なぜ導入されるか
現行法では、事業者が勧告・命令等を受けた後に違反行為を中止すれば、違反行為から得た経済的利得をそのまま保持できてしまう構造でした。個人による民事上の請求にも、時間・費用の面で限界があり、事後的な被害回復は困難です。経済的誘因のある、大量の個人情報の取扱いによる悪質な違反行為を実効的に抑止するため、重大な違反行為により個人の権利利益が侵害された場合等について、当該違反行為によって得られた財産的利益等に相当する額の課徴金の納付を命じる制度が導入されます(法第148条の3〜第148条の17)。
2. 対象となる4つの行為類型
すべての法違反が対象になるのではなく、「緊急命令の対象となっている重要な規制に違反する行為類型」で、かつ「国内外において現実に発生しており、剥奪すべき違法な収益が観念できるもの」に限定されています。
- 不適正な利用の禁止違反(法第19条)
- 適正な取得違反(法第20条第1項)
- 第三者提供の制限違反(法第27条第1項)
- 統計特例違反(統計作成等の特例に依拠した取得・提供について、目的外利用または第三者提供を行った場合)
3. 課徴金が課される4つの限定要件
上の行為類型に当てはまるだけでは課されません。次の4つがすべて揃う必要があります。
- 対象行為: 上記4類型のいずれかに該当すること
- 主観的要素: 対象行為を防止するための相当の注意を怠っていない場合か否かで限定
- 個人の権利利益の侵害: 侵害され、または侵害される具体的なおそれが生じた場合に限定(基本的に勧告等の対象となる事案に限定される)
- 大規模事案: 対象行為に係る本人の数について1,000人を基準とする大規模な事案に限定
4. 算定方法の枠組み
算定方法として、2通りの考え方が示されています。
- 対象行為または対象行為をやめることから直接的に違法な収益を獲得した場合
- 対象行為または対象行為をやめることの対価として得た金銭等の財産上の利益に相当する額
5. いつから
課徴金制度は本体部分に含まれ、「公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日」から施行されます。上限は2028年7月16日で、実際の施行日は政令で指定されます。決定タイムラインで追記していきます。
6. 自社が該当するかを考える順序
個別の判断はできませんが、確認の順序は示せます。
- 自社の取扱いが、上の4類型(不適正利用・不適正取得・第三者提供制限違反・統計特例違反)のいずれかに当てはまりうるか。当てはまらなければ、現時点で課徴金の対象にはならない。
- 取り扱う個人データの本人の数が、1,000人を基準とする大規模事案に近いか。小規模であれば優先度は下がる。
- 対象行為を防止するための相当の注意(安全管理措置・委託先監督等)を、現時点でどこまで講じているかを書き出しておく。政令・規則が出た時点で、差分がすぐ分かる。
- 統計作成等の特例(AI開発等での本人同意の不要化)を利用している場合は、公表事項・合意内容が特例の要件を満たしているかを確認する。
出典
- S-06/S-07個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律について」(PDF) 第4の4「課徴金の導入」「課徴金納付命令の対象範囲」(確認日 2026-09-04)
- S-16個人情報保護委員会事務局「政令・規則等で定める事項の全体像」(PDF・2026年8月26日)(確認日 2026-09-04)
- S-02個人情報保護委員会「令和8年改正個人情報保護法」(確認日 2026-09-04)