顔特徴データ等を取り扱うときは、取り扱っていることを本人に周知する義務が加わります。周知の方法と事項は委員会規則で決まる予定で、まだ公布されていません。委員会事務局は、令和5年3月の資料とそのQ&Aを参考に具体化する案を示しています。その資料にある施設内掲示とウェブサイト掲載の例を、項目ごとに対応表にしました。
1. 従来型防犯カメラと顔識別機能付きカメラの違い
委員会のQ&Aは、2種類のカメラで利用目的の特定と掲示の考え方を分けています。どちらも現行法についての回答です。
| 観点 | 従来型防犯カメラ(Q1-13) | 顔識別機能付きカメラ(Q1-14) |
|---|---|---|
| カメラの仕組み | 撮影した画像から顔特徴データの抽出を行わない | 撮影した画像から顔特徴データを抽出して利用する |
| 利用目的の特定 | 利用目的をできる限り特定し、その範囲で画像を利用する | 犯罪防止の目的に加えて、顔識別機能を用いていることも明らかにして特定する |
| 本人が気づける状態 | 取得が本人に容易に認識できない場合は、認識できる措置を講じる。例は、防犯カメラの作動中の掲示(法第20条第1項) | 運用主体、利用目的、問合せ先、ウェブサイトのURLまたはQRコード等を、入口やカメラの設置場所等に掲示することが望ましい |
| 保有個人データに当たる場合 | Q&Aでは触れていない | 保有個人データに関する事項の公表等が必要(法第32条) |
令和8年改正では、顔特徴データ等の周知が法律上の義務になります(法第21条の2)。上の右列は、その義務の具体化に使われる参考資料の一つです。
2. 周知事項の対応表: 施設内の掲示とウェブサイト
令和5年3月の資料は、本人の理解を得るため、ウェブサイト等での公表に加えて、情報の重要度に応じて施設内でも掲示することが望ましいとしています。施設内には特に認識しておくべき重要な事項を絞って載せ、詳細はウェブサイトに回す設計です。
| 知らせたい内容 | 施設内の掲示 | ウェブサイト等 |
|---|---|---|
| 誰が運用するか | 運用主体を載せる | (独立した項目としては挙げられていない) |
| 何のために使うか | 取り扱われる個人情報の利用目的を載せる | 取り扱われる個人情報の利用目的を載せる |
| なぜ導入するか | (挙げられていない) | 導入する必要性を載せる |
| どう動くか | (挙げられていない) | システムの仕組みを載せる |
| どう運用するか | (挙げられていない) | 運用基準を載せる。例は、登録基準、登録される情報の取得元、誤登録を防ぐ措置、保存期間 |
| 他社に渡すか | (挙げられていない) | 他の事業者への提供(委託、共同利用等)を載せる |
| どう守るか | (挙げられていない) | 安全管理措置を載せる |
| 本人が何をできるか | 問合せ先を載せる | 開示等の請求の手続と苦情の申出先を載せる |
| 詳細はどこか | ウェブサイトのURLまたはQRコード等を載せる | (掲載先そのもの) |
施設内の4項目は、運用主体、利用目的、問合せ先、ウェブサイトへの案内です。ウェブサイトの7項目は、導入の必要性、仕組み、利用目的、運用基準、他の事業者への提供、安全管理措置、開示等の請求の手続と苦情申出先です。行の並べ方は編集部の整理で、資料にある対応関係そのものではありません。
3. 掲示する場所の考え方
- 場所の例: 被撮影者の目線や動線を考え、人が出入りする際に目に付きやすい出入口に掲示する。大規模施設で入口が複数ある場合は、一定の大規模な入口に掲示する。
- 注意書き: 撮影前に掲示を目にする可能性のある場所での掲示が望ましいという趣旨で、施設内ならどこに掲示してもよいわけではない。カメラの設置場所での掲示を妨げるものでもない。
- 見せ方: デザインやフォントを工夫し、アイコンやイラストを使うなど、被撮影者に分かりやすい方法にする。資料には「顔識別機能付きカメラシステム作動中」と大きく示し、利用目的の概要と詳細ページへの案内(URLまたはQRコード)、問合せ先を並べた掲示案が付いています。
委員会が示した掲示案の構成
令和5年3月の資料の別紙3「施設内での掲示案」は、1枚の掲示を次の5段で組んだ図です。以下は掲示案の構成を言葉で説明したもので、文面のひな形ではありません。掲示の文言や図は、自社のシステムに合わせて自社で決める必要があります。
| 段 | 掲示案にある内容 | 対応表の項目 |
|---|---|---|
| 1 | 「顔識別機能付きカメラシステム作動中」を大きな文字で示す | (見出し。対応表にはない) |
| 2 | 顔識別機能付きカメラシステムによりどのようなことが行われているかが一見してわかる図を枠内に置く(図の中身は掲示案では枠で示されているだけ) | (図解。対応表にはない) |
| 3 | 犯罪予防のために顔識別機能付きカメラシステムを利用している旨と、取得した顔画像と顔特徴データを必要最小限の範囲で自社の照合用データベースに登録して利用する旨を短く書く | 何のために使うか |
| 4 | 詳細は、ウェブサイトのURLまたはQRコードから見る旨を書き、URLとQRコードを置く | 詳細はどこか |
| 5 | 問合せ先として、会社名と窓口名、連絡先を書く | 本人が何をできるか |
掲示案の文面にある会社名・URL・連絡先は「○○」「△◇○△」といった伏せ字で、実際の値ではありません。4項目のうち運用主体は、掲示案では問合せ先の会社名に現れます。この構成も、令和8年改正で義務になる掲示の形ではありません。規則の条文は未公布で、掲示の項目も文面も未確定です。確認日は2026-10-12(令和5年3月の資料の別紙3を原本で確認)です。
4. 場面別の確認点: 店舗・オフィス・イベント会場・マンション共用部
令和5年3月の資料は、対象とする場面を限定しています。場面によって、資料の対象に入るか、掲示をどこに出す想定かが変わります。次の表は、資料の「対象範囲」の記述と掲示の考え方を、場面ごとに当てはめて整理した編集部の整理です。個々の施設が対象になるかを判断するものではありません。
| 場面 | 資料の対象範囲との関係 | 掲示・掲載で確認する点 |
|---|---|---|
| 店舗(1店舗だけで使う場合) | 資料は、事前の同意を得ることが困難な、不特定多数が出入りする大規模な空間を対象とする。駅や空港が例。厳密に当たらない空間でも、資料の内容は参考にできるとしている | 出入口に、運用主体、利用目的、問合せ先、ウェブサイトのURLまたはQRコードを掲示する例が参考になる。ウェブサイトには運用基準や保存期間などを載せる例がある |
| 店舗・事業所が複数あり、顔画像と顔特徴データを共有する場合 | 一つ一つの空間が小規模でも、取扱状況を全体で見ると大規模な空間と同視できる場合は対象になる、と資料に書かれている。特定の地域内の複数の事業者で共有する場合も同じ | 他の事業者への提供(委託、共同利用等)はウェブサイトの掲載事項例に入っている。共有の範囲と相手を、説明できる形にしておく |
| オフィス(社員の入退館に使う場合) | 入退館のために事前に本人の同意を得て顔認証を使う場合は、同意を得ることが容易な例として、資料の対象とは別に扱われている(資料の脚注) | この表の掲示例がそのまま当てはまるとは限らない。令和8年改正の周知義務が入退館にどう及ぶかは、規則が未公布のため未確定 |
| イベント会場 | 不特定多数が出入りする大規模な空間にあたる場合が、資料の想定に近い。利用目的は犯罪予防や安全確保が対象で、マーケティングなど商用目的は資料の対象外 | 入口が複数ある大規模施設では、一定の大規模な入口に掲示する例がある。撮影前に掲示を目にできる場所が望ましいとされる |
| マンション共用部 | 資料の対象範囲の記述には、マンションを扱った箇所がない。裁判例の整理にエレベーターや出入口の防犯カメラの例が出てくるが、顔識別機能の周知とは別の論点 | 居住者の入退館に事前の同意を得て使う場合は、上のオフィスの行と同じ整理になるかを確認する。来訪者の扱いは資料に記載がなく、未確定 |
どの場面でも、令和8年改正で義務になる掲示の項目と場所は規則で決まります。2026-06-17の参議院の答弁は「カメラを設置する施設の入口に周知事項を掲示するなど、原則として本人が訪れると想定される場所」に掲示する旨を規定することを想定している、という方針の表明で、場面ごとの扱いまでは述べていません。
5. 国会答弁と附帯決議が求めていること
| 場 | 内容 |
|---|---|
| 参議院 デジタル社会の形成及び人工知能の活用等に関する特別委員会(2026-06-17) | 国務大臣が、カメラを設置する施設の入口に周知事項を掲示するなど、原則として本人が訪れると想定される場所に掲示しなければならない旨を規定することを想定していると答弁した。複数の事業者が顔特徴データを同時に取り扱う場合は、手続が本人にとって過重な負担とならないよう、一元的な窓口の設置などを想定して進めたいとも答弁した |
| 衆議院の附帯決議(九) | 周知行動の実効性を確保する方策を検討して明らかにし、監視カメラやセンサー等の機器の周辺に分かりやすく掲示するなどの方法による周知を事業者に徹底させること |
| 参議院の附帯決議(九) | 衆議院と同じ趣旨に加え、掲示場所を「当該機器の検知対象者が十分認識できる場所等」としている |
答弁は「想定している」という方針の表明で、規則の条文ではありません。附帯決議は政府への要請で、事業者に直接義務を課すものではありません。
6. 決まっていること・案の段階・未確定のこと
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 改正法で決まっている | 顔特徴データ等(特定生体個人情報)の取扱いについて、事前に本人へ周知する義務が設けられること(法第21条の2)。周知方法と周知事項は委員会規則に委ねられること |
| 事務局の案(問いかけ) | 2026-09-16の論点2。周知方法は、機器の周辺など検知対象者が十分認識できる場所に分かりやすく掲示することが重要ではないか。周知事項は、本人の不安感の緩和と、利用停止等請求の検討に資する事項としてはどうか。令和5年3月の資料とQ&Aを参考に具体化してはどうか |
| 未確定 | 委員会規則の条文。掲示で足りるのか、ウェブサイトへの掲載も必要なのか。周知事項の項目と細かさ。周知義務の例外として政令で追加するもの。施行日(公布から2年以内に政令で定める日) |
7. 準備として確認できること
個別の判断はできませんが、規則の確定前に点検できる観点は示せます。
- カメラが、画像から顔特徴データを抽出しているかを確認する。抽出していない従来型の防犯カメラは、顔特徴データ等の規律の対象ではありません。
- 顔識別機能を使っている場合は、運用主体、利用目的、問合せ先を、利用者に示せる形で書き出しておく。
- 登録基準、登録される情報の取得元、誤登録を防ぐ措置、保存期間、他の事業者への提供、安全管理措置を、説明できる状態にしておく。
- 現在の掲示とウェブサイトの記載を控えておく。規則が公布された時に、差分をすぐ確認できます。
- 最終的な判断は、規則の公布後に、顧問弁護士や個人情報保護委員会に確認する。
よくある質問
顔識別機能付きカメラの周知は、施設内の掲示だけで足りますか。
規則が公布されていないため、まだ決まっていません。2026-06-17の参議院の委員会で国務大臣は、施設の入口に掲示するなど、原則として本人が訪れると想定される場所に掲示しなければならない旨を規定することを想定していると答弁しました。ただし、ウェブサイトへの掲載も必要かどうかも、規則の条文がないため未確定です。
施設内の掲示には、何を載せる例が示されていますか。
令和5年3月の資料の例では、運用主体、取り扱われる個人情報の利用目的、問合せ先、ウェブサイトのURLまたはQRコード等の4項目です。詳細は、導入の必要性、システムの仕組み、運用基準、他の事業者への提供、安全管理措置、開示等の請求の手続と苦情申出先などとともに、ウェブサイトに載せる設計です。
この表の項目は、令和8年改正で義務になる周知事項ですか。
いいえ。表の項目は、令和5年3月の資料とQ&Aが「望ましい」「考えられる」として挙げた例です。義務になる周知の方法と事項は、委員会規則で定められます。委員会事務局は、この資料とQ&Aを参考に具体化する案を2026-09-16に示しています。
掲示は施設内のどこに出せばよいですか。
令和5年3月の資料は、被撮影者の目線や動線を考え、人が出入りする際に目に付きやすい出入口に掲示するとしています。大規模施設で入口が複数ある場合は、一定の大規模な入口に掲示します。撮影前に掲示を目にする可能性のある場所が望ましいという趣旨で、カメラの設置場所での掲示を妨げるものではありません。
複数の事業者が同じ顔特徴データを扱う場合、本人はそれぞれに請求するのですか。
2026-06-17の参議院の委員会で国務大臣は、手続が本人にとって過重な負担とならないよう、一元的な窓口の設置などを想定して進めたいと答弁しました。これは方針の表明で、規則の条文はまだありません。
出典
- S-57個人情報保護委員会事務局「政令・規則の整備に向けた基本的な考え方について①」の論点2と参考資料3・4(2026-09-16公表・確認日 2026-10-07)
- S-83個人情報保護委員会「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」別紙3(施設内での掲示案)(令和5年3月・確認日 2026-10-12)
- S-30同上の全体(顔特徴データ等の定義・利用停止等請求の論点を含む)