統計作成等の特例(以下「統計特例」)は、統計情報の作成やAI開発のために個人データ・要配慮個人情報を扱う事業者に関係します。複数の事業者間でデータを共有して横断的に解析するニーズに応える特例で、本人同意なしで扱える範囲が広がる一方、目的外利用や違反には課徴金が科されうる規律です。何が可能になるのか、何を守れば特例が使えるのかを分けて書きます。
1. 現行制度との違い
現行規定では、信仰・病歴・犯罪歴などの差別につながり得る情報(要配慮個人情報)の取得(法第20条第2項)や、個人データの第三者への提供(法第27条第1項)は、例外規定に該当する場合を除き本人の同意が必要です。
一次資料は、統計情報等の作成のために複数の事業者が持つデータを共有し横断的に解析するニーズが高まっている背景を挙げ、特定の個人との対応関係が排斥された統計情報等の作成・利用は個人の権利利益を侵害するおそれが少ないという考え方を示しています。
2. 規律の内容
(1) 特例で可能になること
統計情報等の作成(統計作成等であると整理できるAI開発等を含む)にのみ利用されることが担保されていること等を条件に、次の2つが可能になります。
- 本人同意なき個人データ等の第三者提供: 当初に特定した利用目的の達成に必要な範囲を超える第三者提供を含みます。また、この提供により提供先が本人同意なく要配慮個人情報を取得することも可能になります。
- 公開されている要配慮個人情報の取得: 本人同意なしでの取得が可能になります。
行政機関等が持つ保有個人情報にも、同じ見直しがあります。利用目的以外の目的で提供できる例外として今は「統計の作成」が認められていますが、その対象が「統計情報等の作成」に広がります。
この特例に当てはまらない場合でも、別の例外に当たる余地はあります。同じ改正で新設される目的外利用等の規律緩和は、取得の状況からみて本人の意思に反しないことが明らかな場合の例外です。統計特例は公表・書面合意・目的外利用の禁止という要件が重いため、まず自社の取扱いがどちらの枠に近いかを見ます。
(2) 特例を使うために守る規律
「統計情報等の作成」にのみ利用されることを担保するため、一次資料は次の規律を挙げています。
- 一定の事項の公表(氏名・名称〈取得者、または提供元・提供先〉、行おうとする「統計情報等の作成等」の内容等)。
- 第三者提供の場合、「統計情報等の作成」のみを目的とした提供である旨の書面による提供元・提供先間の合意。
- 取得者及び提供先は、目的外の利用及び第三者提供が禁止される。
(3) 課徴金との関係
この特例に違反した目的外利用・第三者提供は、課徴金の対象となる4類型の一つに含まれています。特例を使うときは、公表・書面による合意・目的外利用の禁止という担保の規律を守ることが前提になります。
3. いつから
この規律は本体部分に含まれ、「公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日」から施行されます。実際の施行日は政令で指定されます。決定タイムラインで追記していきます。
4. 自社が該当するかを考える順序
- 自社がAI開発・データ分析のために、複数事業者間で個人データを共有する予定、または他社から要配慮個人情報を含むデータの提供を受ける予定があるかを確認する。
- その利用目的が「統計情報等の作成」にのみ限定できるか、それとも個別のターゲティングや意思決定に個人データを紐付けて使う予定があるかを整理する。後者であればこの特例の対象外になる可能性が高い。
- 特例を使う想定であれば、公表事項・書面合意・目的外利用禁止の体制を整えられるかを検討する。
- 委員会規則で対象範囲・公表事項の細目が示された段階で、自社の計画がその要件を満たすかを再点検する。
5. 決まっていることと未確定のこと
| 項目 | 資料で示されていること | 未確定のこと |
|---|---|---|
| 特例で可能になること | 統計情報等の作成にのみ利用されることが担保されていること等を条件に、本人同意なき個人データ等の第三者提供と、公開されている要配慮個人情報の取得が可能になること | 対象となる統計作成・AI開発等の具体的な範囲(委員会規則。法第2条第13項) |
| 担保のための規律 | 一定の事項の公表、第三者提供では書面による提供元・提供先間の合意、取得者・提供先の目的外の利用・第三者提供の禁止 | 公表の内容と方法、基準適合体制の内容等(委員会規則) |
| 違反した場合 | この特例に違反した目的外利用・第三者提供は、課徴金の対象となる4類型の一つに含まれること | この表の範囲では、未確定として整理した点はありません |
よくある質問
AI開発のために、本人の同意なく個人データを他社へ提供できるようになるのですか。
統計情報等の作成(統計作成等であると整理できるAI開発等を含む)にのみ利用されることが担保されていること等を条件に、可能になります。条件には、一定の事項の公表と、書面による提供元・提供先間の合意が含まれます。対象となるAI開発等の具体的な範囲は、委員会規則等で定められる予定で、まだ公布されていません。
特定の個人に向けた広告や意思決定のための分析にも使えますか。
この特例は、特定の個人との対応関係が排斥された統計情報等の作成・利用が個人の権利利益を侵害するおそれが少ない、という考え方に立っています。特定の個人への働きかけや意思決定に紐付けて使う予定がある場合は、対象外となる可能性が高い点に注意が必要です。2026年10月1日の事務局資料は、個人に直接影響を及ぼす手法を伴うものを制限してはどうか、という論点を示しています(決定ではありません)。
特例で提供を受けたデータを、別の目的に使い回せますか。
できません。取得者及び提供先は、目的外の利用及び第三者提供が禁止されます。違反した目的外利用・第三者提供は、課徴金の対象となる4類型の一つに含まれています。
要配慮個人情報を、ウェブ上の公開情報から集めることはできますか。
統計情報等の作成にのみ利用されることが担保されていること等の条件を満たせば、公開されている要配慮個人情報を本人同意なしで取得することが可能になります。具体的な対象範囲や公表事項は、委員会規則等で定められる予定です。
いつから使えますか。
本体部分に含まれ、公布の日から起算して2年を超えない範囲内で政令で定める日から施行されます。実際の施行日は、政令で指定されるまで確定しません。
出典
- S-22個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律について」(PDF) 第1の1「統計作成等」(確認日 2026-09-05)
- S-22個人情報保護委員会事務局「政令・規則等で定める事項の全体像」(PDF)(確認日 2026-09-05)
- S-06課徴金制度とは(対象4類型に統計特例違反を含む)
- S-02個人情報保護委員会「令和8年改正個人情報保護法」(確認日 2026-09-04)
- S-42個人情報保護委員会事務局「政令・規則の整備に向けた基本的な考え方について②」(2026-10-01公表・確認日 2026-10-02)