統計作成等の特例は、AI開発などのために、本人の同意なしに個人データを他社へ提供したり、要配慮個人情報を取得したりできる仕組みです。使える範囲や公表の方法は委員会規則で決まります。事務局が2026年10月1日に示した7つの論点と案を、国会で政府が答えた内容と並べて整理します。
3つのページの役割は次のとおりです。統計作成等の特例とはは特例の仕組みと自社が該当するかを考える順序、生命等の保護・学術研究例外とはは研究目的の別の例外で、統計作成として扱うか研究として扱うかの切り分けに使います。このページは、特例のうち規則に委ねられた部分の、事務局案と国会答弁の対応表です。自社の場面が特例の対象になりそうかは、第3節で分けています。
1. 規則に委ねられている4つの事項
事務局の資料は、特例のうち規則に委ねられている事項を4つに分けています。7つの論点は、どれもこの4つの区分のいずれかに当たります。
- 統計作成等の要件: 法律は、統計作成等を「個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして規則で定めるもの」に限っています。論点1と2です。
- 公表の方法と事項: 特例を使う事業者は、一定の事項を公表します。その方法と事項は規則で決まります。論点3から5です。
- 第三者に提供したときの記録事項: 現行法でも、個人データを第三者に提供したら記録を残します。特例による提供でも同じ義務があり、記録する事項は規則で決まります。論点6です。
- 基準適合体制: 外国にある提供先に個人データを渡すときの上乗せの規律(越境移転規制)です。特例では「個人に関する情報」全般に広げるため、その中身を規則で決めます。論点7です。
2. 7つの論点と事務局の案
| 論点 | 問い | 事務局が示した方向 |
|---|---|---|
| 1 担保措置の要件 | 「個人の権利利益を害するおそれが少ない」といえるために、作成の過程で講じるべき措置を何と定めるか | 次の3つの措置を講じたうえで行うことを要件としてはどうか。①必要な範囲を超えた目的外利用・第三者提供を防ぐ措置、②統計情報等からの復元を含む漏えいの防止など、安全管理のための措置、③利用する必要がなくなった個人情報等を遅滞なく消去するための措置。①と②は「必要かつ適切な」措置とされ、例として、組織体制の整備やプライバシー強化技術(PETs)の利用を、リスク評価に基づいて実施し記録することが挙がる |
| 2 除外・限定するもの | 統計作成等から除くべき行為はあるか | 個人の権利利益に直接の影響が生じないという趣旨に照らし、例えば、学習データを増やす目的で、特例により取得・受領した情報の記述を使って本人に働きかけ、その反応のデータを得る場合のように、個人に直接影響を及ぼす手法を伴うものは制限してはどうか。ほかに除外すべきものがあるかも問う |
| 3 公表の方法 | どのような方法を規定するか | 自社のウェブサイトで、次の4つを満たす方法としてはどうか。①1つのページに公表事項をすべて載せる、②クローリング(機械的な巡回)を防ぐ措置をとらない、③検索で見つけやすい特定のキーワードを含む、④不特定多数の人が気づくのに必要な期間をおく。委員会が指定するウェブサイトでの公表をどう考えるかも問う |
| 4 公表事項 | 法律が定める事項のほか、何を公表させるか | 法律が定めるのは、取得者・提供元・提供先の氏名または名称と、行おうとする統計作成等の内容です。これに加え、事業者の住所や代表者の氏名、対象となる個人情報の概要、取得・提供の時期、提供先が取り扱う予定の期間、苦情の申出先や提供先の公表ページのURLなどを検討してはどうか |
| 5 簡易な変更の対象 | 公表事項のうち、提供先が単独で速やかに公表すれば変更できるものをどこまでとするか | 法律は事業者の氏名または名称を挙げています。ほかに、事業者の住所や代表者の氏名、苦情の申出先、取扱い予定期間のような軽微な事項を対象としてはどうか。取扱いの内容に実質的に関わる事項は、提供元と提供先の双方があらかじめ公表することが変更の要件とされている |
| 6 提供時の記録事項 | 特例による提供で何を記録するか | 同意やオプトアウトによる提供と同じ事項(提供の年月日、事業者の氏名・住所・代表者名、本人を特定できる事項、データの項目、提供元の取得の経緯)に加え、行おうとする統計作成等の内容、提供先が講じる措置の概要、合意と公表が行われている旨、提供先の苦情の申出先、取扱い予定期間を記録してはどうか |
| 7 基準適合体制 | 基準・必要な措置・公表する情報をどう定めるか | 現行の規則には、外国にある第三者への個人データの提供について、基準(適切かつ合理的な方法で法の趣旨に沿った措置が確保されていること、または国際的な枠組みの認定を受けていること)、相当措置を続けるための措置(定期的な確認、続けることが難しくなったときの提供停止など)、公表する情報が定められています。これを「個人に関する情報」全般に広げる規定を整備する必要があるのではないか |
論点3の4つの要件は、あくまで「例えば」と断ったうえでの案です。事務局は、ほかに透明性と検索性の高い方法がないかも問うています。
3. 自社の場面が特例の対象になりそうかの分け方
特例の対象は、統計情報等の作成(統計作成等であると整理できるAI開発等を含む)にのみ利用することが担保されている場面です。次の表は、統計作成等の特例とはの考える順序と、論点2の案を、場面に当てはめた編集部の整理です。自社が対象になるかの判断ではなく、規則の確定後に確認する出発点です。
| 場面 | 見通し | 根拠と未確定の点 |
|---|---|---|
| 複数の事業者でデータを持ち寄り、統計やAIのモデル作成だけに使う | 特例の対象になり得る | 利用が統計情報等の作成にのみ限定できることが前提。公表、書面による合意、目的外利用と第三者提供の禁止が要件。公表の方法と事項は論点3から5の案の段階 |
| 他社から要配慮個人情報を含むデータの提供を受けて分析する | 特例の対象になり得る | 特例により、提供先が本人の同意なく要配慮個人情報を取得できるようになる。統計作成等の要件(論点1の担保措置)は案の段階 |
| 取得した情報を使って本人に働きかけ、その反応を学習データにする | 対象から外れる、または制限される可能性がある | 論点2で、個人に直接影響を及ぼす手法を伴うものを制限してはどうかと問われている。ほかに除くべきものがあるかも問われており、範囲は未確定 |
| 個別のターゲティングや意思決定に、個人データを紐付けて使う | 対象外になる可能性が高い | 統計特例のページが示す考える順序の2番目。統計情報等の作成にのみ限定できない利用は、特例の趣旨に合わない |
| 研究機関が研究目的で使う | 別の例外を先に確認する | 研究目的の例外は生命等の保護・学術研究例外とは。統計として扱うか研究として扱うかで、要件が変わる |
| 取得の状況から本人の意思に反しないことが明らかな利用 | 別の例外に当たる余地がある | 目的外利用等の規律緩和は、統計特例より要件が軽い。どちらの枠に近いかを先に見る |
この表の「見通し」は、公表資料の整理から導いた目安です。規則の条文は未公布で、統計作成等の要件と除外の範囲が確定するまでは、どの場面も最終的な結論にはなりません。
4. 国会答弁との対応表
この特例は、衆議院と参議院の審議で、規則に何を定めるかが繰り返し質問されました。事務局の資料は、政府参考人(委員会事務局の担当者)の答弁を3つの委員会から抜粋して載せています。下の表は、その答弁の内容と、10月1日の案との対応を並べたものです。対応づけは編集部の整理で、委員会が公式に示したものではありません。
| 審議の場(日付) | 答弁の内容 | 関係する論点と案の状況 |
|---|---|---|
| 衆議院 地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会(2026-05-21) | 取得した個人情報等について、目的外利用と第三者提供を防ぐ措置、漏えいの防止などの安全管理措置、AIモデル等から出力または復元されることを防ぐ措置を講じるよう、規則で求める | 論点1。10月1日の案は、目的外利用・第三者提供の防止、復元を含む漏えいの防止、不要になった情報の消去の3つ。AIモデル等からの出力を防ぐ措置という言い方は、案には出てこない |
| 同上(2026-05-21) | 公表の具体的な方法は、透明性と検索性の高いものを、委員会規則で定める | 論点3。ウェブページ1つに掲載、クローリングを防がない、特定のキーワード、期間の4要件が案として示された |
| 参議院 厚生労働委員会(2026-06-09) | 対象を個人の権利利益を害するおそれが少ないものに限るため、規則で、目的外利用の禁止、違法な第三者提供の禁止、安全管理に必要な措置、不要なデータ項目を随時削除する措置を求めることを想定している。制度全体として、EUの一般データ保護規則(GDPR)と同等の保護水準になると想定している | 論点1と2。削除の措置は案の3つ目に入っている。個人に直接影響を及ぼす手法の制限(論点2)は、この答弁には出てこない新しい案 |
| 参議院 デジタル社会の形成及び人工知能の活用等に関する特別委員会(2026-06-24) | 公表項目に特定の文言を規定したうえで、1つのウェブページに、クローリングを防ぐ措置をとらずに掲載し、機械的な検索ができるようにする方法を、委員会規則で定めたい | 論点3の案とほぼ同じ内容。この日の答弁は、特定の文言を規則で規定するとしている。10月1日の案は「特定のキーワードを含む」としており、具体的な文言は示されていない |
| 同上(2026-06-24) | どのようなデータが必要で、必要な限り提供していることを説明する意味では、住所や氏名は不要だということが分かるように公表するのが、法の趣旨に即した方法だという認識 | 論点4。10月1日の案の公表事項は、取得・提供するデータの概要や項目に関する事項を含む。どの粒度で書かせるかは未確定 |
答弁は、規則の内容を決めるものではありません。政府が国会で述べた方針であり、最終的な規則の条文で同じになるとは限りません。
5. 決まっていること・案の段階・未確定のこと
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 改正法で決まっている | 統計作成等の定義(規則で定めるものに限る)、公表と書面による合意を要件とすること、取得者・提供先に目的外利用と第三者提供の禁止を課すこと、公表事項のうち取得者・提供元・提供先の氏名または名称と、行おうとする統計作成等の内容。公表の方法、その他の公表事項、簡易な変更の範囲、記録事項、基準適合体制の中身は規則に委ねられている |
| 事務局の案(問いかけ) | 上の論点1〜7に書いた内容 |
| 未確定 | 委員会規則の条文。統計作成等から除く行為の範囲。公表の方法と事項の最終的な形(委員会指定サイトでの公表を含む)。簡易な変更の対象。記録事項。基準適合体制の中身。施行日(公布から2年以内に政令で定める日) |
国会の附帯決議には、統計作成等の概念が適正に解釈されるよう留意すること、公表について本人が容易に知り得る状態に置かれるよう委員会が状況を把握または監視して必要な情報を公表すること、といった項目があります。附帯決議が付されたのは、衆議院が2026年5月21日、参議院が2026年7月8日です。文言は両院で少し異なります。附帯決議の全体は政令・規則の整備プロセスにまとめています。
6. 準備として確認できること
個別の判断はできませんが、規則が確定する前に点検できる観点は示せます。
- AI開発やデータ分析のために、他社からデータの提供を受ける、または他社へ提供する予定があるかを確認する。ない場合、この特例は自社に関係しません。
- 予定がある場合は、その目的が統計情報等の作成だけに限れるかを整理する。論点2の例のように、本人に働きかけて反応を得る使い方は制限される案が示されています。
- 提供するデータや受け取るデータを、いつ、誰と、どの項目で扱ったか記録できる状態かを確認する。論点6の記録事項の案と重なります。
- 自社のウェブサイトで、1つのページに事項を載せ、検索で見つけられる形で公表できるかを確認する。論点3の案は、まだ決定ではありません。
- 提供先が外国にある場合は、現行の越境移転規制の対応が前提になる点を確認する。論点7は、その規制を「個人に関する情報」全般に広げる案です。
- 最終的な判断は、規則が公布されてから、顧問弁護士や個人情報保護委員会に確認する。
7. よくある質問
Q1. 2026年10月1日に示された7つの論点は、決まった規則ですか。
決まった規則ではありません。事務局が検討のたたき台として示した案で、「ではないか」「でよいか」という問いかけの形で書かれています。委員会の決定でも、公布された規則でもありません(確認日 2026-10-02)。
Q2. 統計作成等の特例の公表は、どのような方法になりますか。
事務局は論点3で、自社のウェブサイトで、1つのページに公表事項をすべて載せる、クローリングを防ぐ措置をとらない、検索で見つけやすい特定のキーワードを含む、不特定多数の人が気づくのに必要な期間をおく、という4つを満たす方法を案として示しています。「例えば」と断った案で、最終的な形は未確定です。
Q3. 規則で、統計作成等から除かれる行為はありますか。
論点2で、特例により取得・受領した情報の記述を使って本人に働きかけ、その反応のデータを得る場合のように、個人に直接影響を及ぼす手法を伴うものを制限してはどうか、という案が示されています。除かれる行為の範囲は未確定です。
出典
- S-42個人情報保護委員会事務局「政令・規則の整備に向けた基本的な考え方について②」(2026-10-01公表・確認日 2026-10-02)
- S-43同上の論点1・論点7と、国会答弁の抜粋(参考資料)(確認日 2026-10-02)
- S-19個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律の概要」(確認日 2026-09-05)