医療機関・公衆衛生関連事業者・病院を含む研究機関に関係します。2つの独立した見直しをまとめて扱います。①生命等の保護や公衆衛生の向上のために本人同意なく個人情報を扱える場面の要件緩和②学術研究を目的とした取扱いが認められる「学術研究機関等」に病院等が明示的に含まれる、という改正です。どちらも政令・委員会規則ではなく、ガイドラインで対応の細目が示される点が特徴です。匿名加工医療情報・仮名加工医療情報の扱いを定める別の法律の改正は医療情報法の令和8年改正で扱い、このページは個人情報保護法そのものの例外を扱います。
1. 同意取得困難性要件の緩和
(1) 現行制度との違い
現行規定では、個人情報の当初の目的外利用(法第18条第3項)、要配慮個人情報の取得(法第20条第2項)、個人データの第三者提供(法第27条第1項)は、原則として本人の同意が必要です。ただし、次の2つの場合には本人同意が不要となり得ます。
- 人の生命・身体・財産の保護のために必要がある場合(生命身体財産例外)
- 公衆衛生の向上・児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合(公衆衛生等例外)
いずれの場合も、「本人の同意を得ることが困難であるとき」という要件を満たす必要があります。
(2) 規律の内容
改正では、「本人の同意を得ることが困難であるとき」のみならず、「その他本人の同意を得ないことについて相当の理由があるとき」についても、本人からの同意取得を不要とします。
一次資料は、この「相当の理由」の想定例を次のように挙げています。公衆衛生の向上等のために特に必要であること。そのうえで、本人のプライバシー等の侵害を防ぐための必要かつ適切な措置(氏名等の削除、提供先との守秘義務契約の締結等)が講じられ、本人の権利利益が不当に侵害されるおそれがない場合です。
2. 学術研究例外の対象拡大
(1) 現行制度との違い
現行規定では、学術研究を目的として目的外利用・要配慮個人情報取得・第三者提供を行う場合、本人同意が不要となり得ます(学術研究例外)。ただし、この例外が適用される主体は「学術研究機関等」(法第16条第8項: 大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体又はそれらに属する者)のみで、病院等は含まれていません。
一次資料は、医学・生命科学の研究には研究対象となる診断・治療の方法に関する臨床症例の分析が必要不可欠であり、病院等の医療の提供を目的とする機関または団体による研究活動が広く行われている実態を指摘しています。その結果、大学付属病院は学術研究例外に依拠できる一方、市中病院等は依拠できないという非対称が生じています。
(2) 規律の内容
改正では、「学術研究機関等」に、医療の提供を目的とする機関又は団体(例: 病院、その他の医療の提供を目的とする機関等〈診療所等〉)が含まれることを明示します。
| 項目 | 現行 | 改正後 | 未確定 |
|---|---|---|---|
| 同意取得困難性要件 | 生命等の保護・公衆衛生の向上等の例外は「本人の同意を得ることが困難であるとき」に限られる。 | 「その他本人の同意を得ないことについて相当の理由があるとき」も同意不要に加わる。想定例は、公衆衛生の向上等のために特に必要で、氏名等の削除や守秘義務契約など必要かつ適切な措置が講じられ、本人の権利利益が不当に侵害されるおそれがない場合。 | 「相当の理由」の具体的な事例。ガイドライン等で明確化する想定。政令・委員会規則にゆだねられた事項はない。 |
| 学術研究例外の対象 | 「学術研究機関等」(法第16条第8項)のみ。大学付属病院は依拠でき、市中病院等は依拠できない。 | 「学術研究機関等」に、医療の提供を目的とする機関又は団体が含まれることを明示。病院や診療所等を含むことが想定されている。 | 具体的な対象範囲。ガイドライン等で明確化する想定。政令・委員会規則にゆだねられた事項はない。 |
| 施行 | (現行の規律) | 本体部分。公布から2年を超えない範囲内で政令が定める日。 | 実際の施行日は未確定。 |
表は一般的な整理です。自社の取扱いが対象に当たるかの判断は、顧問弁護士または個人情報保護委員会にご確認ください。
病院・診療所の場面別に見た整理
| 場面 | 現行 | 改正後 | 未確定・確認先 |
|---|---|---|---|
| 大学付属病院が、臨床症例を医学研究に使う | 一次資料は、学術研究例外に依拠できる主体として示しています。 | 一次資料に、この場面を変える記載はありません。 | 個別の取扱いが例外の要件に合うかは、条文とガイドラインで確認します。 |
| 市中病院が、自院の症例を医学研究に使う | 「学術研究機関等」に含まれないため、学術研究例外に依拠できないと整理されています。 | 「学術研究機関等」に、医療の提供を目的とする機関又は団体が含まれることが明示されます。 | 具体的な対象範囲はガイドライン等で明確化される想定です。 |
| 診療所が、症例を学術研究に使う | 市中病院と同じ整理です。 | 一次資料は、病院のほか診療所等が含まれることを想定しています。 | 診療所等のうちどこまでが対象かは、ガイドライン等待ちです。 |
| 公衆衛生の向上のため、本人の同意を得ることが困難とまでは言えない場面で、データを提供する | 「同意を得ることが困難であるとき」に当たらなければ、公衆衛生等例外に依拠できません。 | 「その他本人の同意を得ないことについて相当の理由があるとき」も加わります。想定例は、氏名等の削除や守秘義務契約など必要かつ適切な措置が講じられている場合です。 | 「相当の理由」の具体的な事例は、ガイドライン等で明確化される想定です。 |
| 生命・身体・財産の保護のため、本人に連絡できない場面で、情報を提供する | 「同意を得ることが困難であるとき」の要件を満たす場合に、生命身体財産例外に依拠できる余地があります。 | 「困難であるとき」の要件に加えて、「相当の理由があるとき」も加わります。 | この場面で何が「相当の理由」に当たるかは、ガイドライン等待ちです。 |
場面は一次資料の記述を読み分けるための例で、自院の取扱いがどの行に当たるかは顧問弁護士または個人情報保護委員会にご確認ください。
3. いつから
この規律は本体部分に含まれ、「公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日」から施行されます。実際の施行日は政令で指定されます。決定タイムラインで追記していきます。
4. 自社が該当するかを考える順序
- 公衆衛生の向上・生命身体財産の保護のために、本人同意を得ずに個人情報を取り扱っている、または取り扱いたい場面があるかを洗い出す。現行の「同意取得困難」要件で対応しきれず断念した経緯があれば、この改正で状況が変わりうる。
- 病院・診療所等の医療提供機関であり、学術研究を行っている、または今後行う予定があるかを確認する。市中病院等がこれまで学術研究例外を使えなかった場面に該当するかを点検する。
- いずれの場合も、本人のプライバシー侵害を防止する措置(氏名等の削除、守秘義務契約等)を講じられる体制があるかを確認する。
- ガイドライン・Q&Aで具体的な事例が示された段階で、自社の想定場面がその事例に当てはまるかを再点検する。
5. よくある質問
Q1. 「同意を得ることが困難であるとき」でなくても、本人同意なしに扱えるようになりますか。
改正では、「本人の同意を得ることが困難であるとき」のほか、「その他本人の同意を得ないことについて相当の理由があるとき」も、同意取得が不要な場合に加わります。一次資料が挙げる想定例は、公衆衛生の向上等のために特に必要で、氏名等の削除や守秘義務契約など必要かつ適切な措置が講じられ、本人の権利利益が不当に侵害されるおそれがない場合です。具体的な事例はガイドライン等で示される想定で、まだ確定していません(確認日 2026-10-06)。
Q2. 病院や診療所は、学術研究例外を使えるようになりますか。
改正では、「学術研究機関等」に、医療の提供を目的とする機関または団体(病院、診療所等)が含まれることが明示されます。具体的な対象範囲はガイドライン等で明確化される想定で、政令や委員会規則にゆだねられた事項はありません(確認日 2026-10-06)。
Q3. 施行はいつですか。
本体部分として、公布の日から2年を超えない範囲内で政令が定める日に施行されます。実際の施行日はまだ決まっていません(確認日 2026-10-06)。
Q4. 市中病院が自院の症例を研究に使うとき、改正後は本人の同意が不要になりますか。
改正で明示されるのは、「学術研究機関等」に医療の提供を目的とする機関又は団体が含まれることです。これにより、市中病院等も学術研究例外に依拠できる主体になりえますが、個々の取扱いが例外の要件に合うかは別の問題です。具体的な対象範囲はガイドライン等で明確化される想定で、自院の場合の判断は顧問弁護士または個人情報保護委員会にご確認ください(確認日 2026-10-18)。
Q5. 大学付属病院は、今回の改正で何か変わりますか。
個人情報保護委員会の資料は、大学付属病院は現行でも学術研究例外に依拠できる一方、市中病院等は依拠できないという違いを、今回の見直しの理由として挙げています。大学付属病院自身について新たな規律を置くという記載は、確認した資料にはありません(確認日 2026-10-18)。
Q6. 氏名を削除すれば、「相当の理由」があると言えますか。
一次資料は、「相当の理由」の想定として、公衆衛生の向上等のために特に必要であることに加え、氏名等の削除や提供先との守秘義務契約の締結など、本人のプライバシー等の侵害を防ぐために必要かつ適切な措置が講じられていることを挙げています。氏名の削除だけで足りるかは示されておらず、具体的な事例はガイドライン等で明確化される想定です。個別の判断は顧問弁護士または個人情報保護委員会にご確認ください(確認日 2026-10-18)。
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- 医療情報法の令和8年改正: 匿名加工医療情報・仮名加工医療情報を扱う病院や事業者は、個人情報保護法とは別の法律の改正点も確かめる必要があるため。
- 目的外利用等の規律緩和: 同じ3つの条文(目的外利用・要配慮個人情報の取得・第三者提供)で、本人の意思に反しないことが明らかな場合の例外も新設されるため。
- 統計作成等の特例: 研究ではなく統計の作成として取り扱う場合の特例も、同じ改正で入るため。
出典
- S-24個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律について」(PDF) 第1の2(2)・(3)(確認日 2026-09-05)
- S-24個人情報保護委員会事務局「政令・規則等で定める事項の全体像」(PDF)(確認日 2026-09-05)
- S-02個人情報保護委員会「令和8年改正個人情報保護法」(確認日 2026-09-04)