個人データを取り扱うすべての事業者に関係します。これは「自社が該当するかどうか」ではなく「違反した場合にどうなるか」に近いテーマです。個人情報保護委員会が事業者へ発動する勧告・命令の要件と内容が強化され、加えて違反行為に関与する第三者(クラウド事業者等)への任意要請の根拠規定も新設されます。
1. 現行制度との違い
現行制度の勧告・命令は次の3点です。
- 要件: 勧告を経ることなく直ちに命令(緊急命令)が出せるのは、個人の重大な権利利益が既に侵害されている場合に限られる。
- 内容: 勧告・命令の内容は、違反行為の中止その他違反を是正するために必要な措置に限定されている。
- 対象: 勧告・命令は、法の義務規定に違反した事業者自身に対してのみ発出することができる。
2. 規律の内容
(1) 緊急命令の要件緩和
個人の重大な権利利益が既に侵害されている場合(現行法)に加え、個人の権利利益の侵害が切迫している場合においても、勧告を前置することなく命令(緊急命令)を発出できるようになります。
一次資料の想定例: 名簿の販売先が、法に違反するような行為を行う者にも名簿を転売する転売屋(ブローカー)だと名簿販売業者が認識していたにもかかわらず、当該販売先に対し、意図的にその用途を確認せずに名簿を販売した事案など。この「販売先の用途を確認しない」という問題そのものに対しては、オプトアウト制度の強化で提供先の確認が義務付けられます。
(2) 勧告・命令の内容の拡大
違反行為の中止その他違反を是正するために必要な措置(現行法)に加え、本人に対する違反行為に係る事実の通知又は公表その他の本人の権利利益の保護のために必要な措置を勧告・命令の内容とすることができるようになります。
一次資料の想定例: 法第19条(不適正な利用の禁止)に違反して、犯罪者グループ等の違法行為を行う蓋然性が高い第三者に名簿が提供された場合など。
(3) 違反関与の第三者への任意要請の根拠規定
違反事業者に対して命令を発出した場合、違反行為に関与する第三者(例: クラウドサービス事業者、サーバのホスティング事業者、検索サービス提供事業者など)に対する任意の要請について、明確な根拠規定が設けられます。要請の内容として、役務(サーバのホスティング等)の提供停止が想定されています。第三者が要請に応じた場合、当該違反事業者に対する損害賠償責任を負わないこととされます。
(4) 勧告・命令・緊急命令の比較表
現行の欄は法第148条の条文(2026-10-14にe-Govで確認)、改正後の欄は上記の委員会資料の記載です。資料に書かれていない点は「資料で確認できず」と書き、未確定として扱います。
| 項目 | 現行(法第148条) | 改正後(委員会資料) | まだ決まっていないこと |
|---|---|---|---|
| 誰が・誰に | 委員会が、義務規定に違反した個人情報取扱事業者等に対して出す。 | 違反した事業者に対しては変わらない。加えて、命令を出した場合に、違反に関与する第三者(クラウド事業者等)へ任意の要請をする根拠規定が置かれる。 | 要請の具体的な手続・範囲は政令・規則等で定める事項とされるが、全体像PDFでは事項が示されていない。 |
| 勧告の要件 | 違反した場合に、個人の権利利益を保護するため必要があると認めるとき(第1項)。 | 資料に要件の変更の記載は確認できず。 | 変更の有無は資料で確認できず(未確定)。 |
| 命令の要件(勧告後) | 勧告に係る措置を正当な理由なくとらなかった場合で、個人の重大な権利利益の侵害が切迫していると認めるとき(第2項)。 | 資料に要件の変更の記載は確認できず。 | 変更の有無は資料で確認できず(未確定)。 |
| 緊急命令の要件(勧告なし) | 個人の重大な権利利益を害する事実があるため緊急に措置をとる必要があると認めるとき(第3項)。資料の整理では「既に侵害されている場合」。 | 既に侵害されている場合に加え、侵害が切迫している場合にも、勧告を前置せずに出せる。 | 法律本体の改正で、下位法令への委任は資料で確認できず。何が「切迫」に当たるかはガイドライン・Q&Aで示される見込み。 |
| 勧告・命令の内容 | 違反行為の中止その他違反を是正するために必要な措置。 | これに加え、本人に対する違反の事実の通知または公表その他の本人の権利利益の保護のために必要な措置を含められる。 | 法律本体の改正で、下位法令への委任は資料で確認できず。 |
| 命令に違反したとき | 委員会は、その旨を公表できる(第4項)。 | 資料に変更の記載は確認できず。 | 変更の有無は資料で確認できず(未確定)。 |
| 施行 | 施行済み。 | 本体部分。公布の日から2年を超えない範囲内で政令で定める日。 | 施行日は未確定(政令で指定)。 |
(5) 委員会の対応が進む段階ごとの比較(現行と改正後)
委員会の対応は、報告・資料の求めや立入検査(法第146条)、指導・助言(第147条)から始まり、勧告、命令、緊急命令へと段階があります。次の表は、段階ごとに現行条文と改正後の資料の記載を並べたものです。報告・立入検査、指導・助言の条文について、改正による変更は資料で確認できていません。
| 段階 | 現行で委員会ができること | 改正後の資料の記載 | 事業者側で起きること |
|---|---|---|---|
| ① 報告・資料の求め、立入検査(第146条) | 施行に必要な限度で、報告や資料の提出を求め、職員が事務所等に立ち入って質問・帳簿書類の検査をする。 | 資料に変更の記載は確認できず(未確定)。 | 求めに応じて取扱いの状況を説明し、資料を出す場面。 |
| ② 指導・助言(第147条) | 施行に必要な限度で、必要な指導と助言をする。 | 資料に変更の記載は確認できず(未確定)。 | 是正や改善を求められる場面。この段階では命令ではない。 |
| ③ 勧告(第148条第1項) | 義務規定に違反した場合で、個人の権利利益を保護するため必要があると認めるとき、違反の中止その他是正に必要な措置をとるべき旨を勧告する。 | 措置の内容に、本人への違反事実の通知または公表その他の本人の権利利益の保護に必要な措置が加わる。 | 勧告に係る措置をとるか、とらない場合の正当な理由があるかを検討する場面。 |
| ④ 命令(第148条第2項) | 勧告を受けて正当な理由なく措置をとらず、個人の重大な権利利益の侵害が切迫していると認めるとき、勧告に係る措置をとるよう命令する。 | 勧告の内容が広がるのに応じて、命令で求められる措置も広がる。要件の変更の記載は確認できず。 | 命令違反は、第178条により1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象(現行条文)。 |
| ⑤ 緊急命令(第148条第3項) | 勧告を経ず、個人の重大な権利利益を害する事実があるため緊急に措置をとる必要があると認めるとき、是正に必要な措置を命令する。対象となる違反の条文は第3項に列挙されている。 | 侵害が切迫している場合にも、勧告を前置せずに出せる。 | 是正までの猶予が短い。第178条の罰則は第3項の命令にも及ぶ。 |
| ⑥ 命令違反の公表(第148条第4項) | 命令に違反したときは、その旨を公表できる。 | 資料に変更の記載は確認できず(未確定)。 | 公表されると取引先や本人に知られる。 |
この表の読み方として、勧告は第3項に列挙された条文より広い範囲の違反が対象になる点が、緊急命令との違いです。緊急命令の対象になる違反は第3項の列挙に限られ、第1項の勧告の対象より狭く書かれています。罰則の最新の整理は罰則の改正(2027年1月)で確認できます。
(6) 事業者が受け取る通知の種類ごとの確認点
委員会から届く文書は、種類によって法的な位置づけが異なります。次の表は、通知の種類ごとに「条文上どの段階か」「受け取った側が確認する点」を一般論として並べたものです。個別の通知にどう対応すべきかの判断は、顧問弁護士か個人情報保護委員会にご確認ください。
| 通知の種類 | 条文上の位置づけ | 受け取った側が文書で確認する点 |
|---|---|---|
| 報告・資料提出の求め | 第146条第1項。施行に必要な限度での求め。 | 求められている報告・資料の範囲と提出期限。立入検査の場合は、職員の身分証明書の提示を請求できる(同条第2項)。 |
| 指導・助言 | 第147条。勧告や命令の前の段階。 | 指摘された取扱いの内容と、求められている改善。勧告ではなく、命令に直結しない点。 |
| 勧告 | 第148条第1項。 | とるべき措置の内容と、措置をとる期限。改正後は、本人への通知または公表が措置に含まれていないか。 |
| 命令(勧告後) | 第148条第2項。勧告に係る措置をとらなかった場合。 | 命令の根拠が第2項か第3項か。命じられた措置と期限。命令違反は第178条の対象。 |
| 緊急命令 | 第148条第3項。勧告を前置しない。 | 勧告を経ていない文書であること。緊急に必要とされた理由と、命じられた措置。 |
| 任意の要請(クラウド事業者等が受ける側) | 改正で根拠規定が設けられる(施行日は未確定)。命令とは別の、任意の要請。 | 要請の対象がどの違反行為か。応じなくても罰則の対象ではない点(任意の要請と整理されている)。詳細は取扱関係役務提供者への要請。 |
3. いつから
この規律は本体部分に含まれ、「公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日」から施行されます。実際の施行日は政令で指定されます。決定タイムラインで追記していきます。
4. 事業者として意識しておくこと
このテーマは、自社が該当するかどうかを判定する性質のものではなく、法違反があった場合の委員会の対応が強化されるという内容です。次の点は意識しておく価値があります。
- 緊急命令が「侵害が切迫している場合」にも発動しうるようになるため、違反状態を把握した際に是正までの猶予が短くなる前提で社内対応フローを整理する。
- 勧告・命令の内容に本人への通知・公表が加わりうるため、法違反が起きた場合のレピュテーションへの影響が現行よりも大きくなりうることを踏まえる。
- クラウドサービス・ホスティング等の提供事業者の立場にある場合、委託先や利用者による法違反に関与しているとみなされ、委員会から任意の要請を受ける可能性があることを認識しておく。
よくある質問
緊急命令の要件は、現行法とどう変わりますか。
現行法で勧告を経ずに命令(緊急命令)が出せるのは、個人の重大な権利利益が既に侵害されている場合です。改正後は、個人の権利利益の侵害が切迫している場合にも、勧告を前置せずに命令を出せるようになります。
勧告・命令の内容には、何が加わりますか。
違反行為の中止その他違反を是正する措置に加え、本人に対する違反行為に係る事実の通知または公表その他、本人の権利利益の保護のために必要な措置を、勧告・命令の内容とできるようになります。
クラウド事業者などへの要請は、義務になりますか。
資料は、違反事業者に命令を出した場合の、違反行為に関与する第三者への「任意の要請」の根拠規定が設けられると整理しています。要請に応じた第三者は、違反事業者に対する損害賠償責任を負わないこととされます。条文の要件と免責は、取扱関係役務提供者への要請のページで整理しています。
政令や規則で決まる事項はありますか。
全体像PDFで政令・規則等で定める事項として明記されているのは、第三者への要請の規定のみで、政令・委員会規則ともに事項はなく、ガイドライン・Q&Aで基本的な考え方や事例等が示される見込みです。緊急命令の要件と勧告・命令の内容は法律本体の条文改正で、下位法令への委任は一次資料で確認できていません。
出典
- S-25個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律について」(PDF) 第4の1・2「勧告・命令等の実効性確保」(確認日 2026-09-05)
- S-25個人情報保護委員会事務局「政令・規則等で定める事項の全体像」(PDF)(確認日 2026-09-05)
- S-02個人情報保護委員会「令和8年改正個人情報保護法」(確認日 2026-09-04)